■8階での一騎打ち
酔っ払いレスラーの場外乱闘場と化した水俣市の旅館。
そこまで酔っていなかった越中詩郎は、宿の人たちからすると「まともな人」と見えたらしい。
従業員が越中に助けを求めに来たのだ。
「すいません、8階で誰かが喧嘩してます!」
話を聞くと、どうやら藤原喜明とドン荒川が喧嘩をしているらしい。
さすがの越中もこれはちょっとヤバイと感じたようだ。
しかも、8階といえばこの旅館の最上階にあたる。
嫌な予感がした。
急いで越中が駆けつけると、確かに藤原喜明とドン荒川が、気迫と勢いを発しつつ対面していた。
「どちらが強いかハッキリさせようじゃねーか」
しかし、その「ハッキリさせる」方法が問題だった。
なんと、度胸試しで8階の窓から飛び降り、無事だった方が勝ちという対決をしようとしていたのだ。
慌てた越中詩郎、なんとか二人を押さえつけてその場を止めたらしい。
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■「古舘さん、旅館ごと買い取っちゃいましょうか?」
さて、このとき、社長であるアントニオ猪木の心境はどうだったのか?
このときのアントニオ猪木は、動じずに腕組をし、ことの経緯をじっと見守っていた。
古舘伊知郎によると、それはまるで「とことんやらせるしかないでしょう」といった感じに見えたという。
この時点で、到着時にはあれほど歓迎してくれた主人と女将は、オロオロしながら「やめて下さい~」と泣き叫ぶ状態。
この頃の古舘は、プロレス中継において徐々に顔と名前が売れてきていた時期。
そして、女将は2階にいる猪木と古舘のもとに泣きながらやってきた。
古舘と目が合った女将はすかさず古舘にすがりつく。
「古舘さん、なんとかして…この2階だけでも修復する弁償のお金出してー!!」
女将からすると、場外乱闘時でゴングを凶器として使われているときすらも、冷静に実況を行うアナウンサーであれば、なんとかなると思ったのかもしれない。
ともあれ、古舘は猪木に伝えた。
「猪木さん、女将さんが『弁償のお金出して』って言われてますよ。」
すると猪木は古舘の耳元で驚くべきことを言い出した。
「古舘さん、旅館ごと買い取っちゃいましょうか?」
古舘は一瞬びっくりするも、そのまま女将に伝えることに。
「猪木さんが、『旅館ごと買い取ったらいくらになる?』って聞いてますが…?」
すると女将は、
「そんな、2階だけでいいです。ちなみに、まるごとだったら8000万円!」
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■左手に握られた一升瓶
旅館の入口にあるソファーでは、坂口征二と前田日明が並んで座り、話をしていた。
坂口の隣には船木誠勝が座り、坂口の左手を力強く押さえている。
先程開けた焼酎の一升瓶が握られているからだ。
前田の横にも別の新人がついていた。
話の内容は前田がUWFのことや新日に対する思いなどを語っており、それを坂口が聞いてやっているという図式だ。
少しでも坂口が気に入らない言葉を発すると、瞬時に一升瓶が飛んでくるという図式である。
その都度、一升瓶を握る左手に力が入り、それを船木が力強く押さえる、という状態だ。
いろいろな話がなされたようだが、最後に前田は泣きながら訴えていたという。
「ここにいる船木みたいないい選手もいるんです。ちゃんとやってください。」
17歳で坊主頭だった船木誠勝も、それを聞いて泣いてしまった。
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