■徐々に怪しい雲行きが見え始めた宴会場
ドン荒川は全体を和ませるため、メンバーそれぞれの席を回っていた。
その甲斐あってか、徐々に場もいい感じになりはじめ、昔話や笑い声に花が咲き始める。
そんな良き雰囲気の中、1時間程度が経過したころ、「もっと場をほぐしたい」と考えるアントニオ猪木や坂口征二の言い出しにより「イッキ飲み」がスタート。
(注:この時代、飲み会に「イッキ飲み」はつきもの。体育会系の飲み会では先輩にイッキを命じられると断れないパターンも珍しくなかった。)
イッキに酒を飲めば、当然、イッキに酔っ払う。
しかも飲んでいるのは焼酎だ。
でかい体の男たちの集団は、徐々にベロベロでヘロヘロな状態に変貌していった。
人間というものは酒が入れば本音が出るもの。
「和んだ」と思えた宴会は、徐々に怪しい雰囲気が漂いはじめることになったのだ。
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■中堅、新人が避難を開始
この時、若手の1人である蝶野正洋は、雰囲気が怪しくなりはじめたことを察していた。
「これはヤバイかも…」と思った蝶野は、早々に自分の部屋に避難する。
他にも、越中詩郎などの中堅選手も、同じように避難をしはじめた。
幸か不幸か、このときの宴会場はみんなヘロヘロ状態。
中堅や若手が避難したところで、特に気にかける「先輩」連中はいなかったようだ。
■「そんなのプロレスじゃねぇ!」
そしてついに「本日のメーンイベント」ともいえるバトルが勃発してしまう。
宴たけなわの中、主要選手たちの一団から若干離れた位置に座っていた船木誠勝があることに気付く。
UWFのエースである前田日明が、何かに気に触ったような顔で座っているのだ。
視線は一直線に武藤敬司に向いていた。
そして前田が口を開く。
「武藤。おまえな、海外から返ってきたからっていい気になってんじゃね-ぞ。」
その場は一瞬にして凍りついた。
しかし、後輩にあたる武藤敬司も無礼講のヘロヘロ状態。
この時は負けてはいなかった。
「前田さん、あんたがやってんのはプロレスじゃね-よ!あんたたち(UWF)が来ても、全然、客が入ってないじゃないですか!」
と反論。
その言葉が終わるやいなや、ほぼ瞬時に前田日明は武藤敬司の元に直行。
武藤を引きずり出しそのまま馬乗り状態、武藤の顔をボコボコに殴り始めたのだ。
さすがに高田延彦や船木誠勝など、その場にいたレスラーたちがみんなで止めに入った。
この時、前田日明を押さえていた船木誠勝は、「この人を止められるのは1人しかいない」と直感。
藤原喜明だ。
「藤原さーん!藤原さーん!」
船木はがむしゃらに数回叫んだ。
すぐさま藤原喜明が登場。
まるで場外乱闘の助太刀に駆けつけたかの如くの勢いである。
しかし、その後は試合における場外乱闘とはちょっと違った。
他の選手に押さえつけられた前田に対し、なんと藤原は、人間サンドバックのようにボコボコに殴りだしたのだ。
このとき前田は、UWFの大先輩である藤原喜明に対し、一切手を出さず、ひたすら殴られていたという。
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■「どこでもいいけん関節を取ってみいッ」
新日本プロレス副社長で今回の幹事的な存在である坂口征二もかなり酔いがまわっていた。
おそらく「喧嘩なんかしやがって!この若造が!」という気持ちだったのだろう、突然、前田日明の目の前で寝っ転がり、「どこでもいいけん、関節、取ってみいッ!」と言い放ったのだ。
すでに興奮し、キレ気味でヘロヘロ状態の前田日明。
なんと寝そべった坂口に対しストンピングをしようとする。
しかし、それをまたみんなが止めに入るという状態。
これら一連の騒ぎにより、テーブルのお膳はぐちゃぐちゃな状態になってしまった。
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